2011年02月03日

ごはんがあぶない〜FOOD,Inc.(フード・インク)〜市場システムに蝕まれ、政治戦略の道具にされる食

2月2日、渋谷のシアターイメージ・フォーラムで2008年制作の映画『FOOD,INC.』をみた。
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映像の力

Uzumakiの仲間に声をかけ平日だが、4人が一緒に行ってくれ、共通認識として、この映画をもつことができたことを大切にしたい。食の安心・安全と一口に言うが、その意味する水準や、現れる場面は多岐にわたり共通言語をもつことは、実際にはなかなか容易ではない。映画は映像という強い武器を持ち、共通言語の形成・熟成に大いに役立つ。

『FOOD,INC.』は「アメリカ食品産業の問題点に切り込んだ(ウィキペデイア)」と評される、ドキュメンタリー映画で、82回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされ、興行的にも成功を収めた、らしい。監督兼プロデューサーの、ロバート・ケナーが6年の歳月をかけて撮影したという。
その労は生々しい映像に結実しており、ばらばらに粉砕されてただの肉片となった豚や牛が巨大な処理施設の間を猛スピードで通過して食肉パックとなるシーンや、深夜に違法就労者たちが眠っている鶏を無機的な表情で「処理」するために捕獲するシーンや、巨大な食肉企業から強制的に高価な養鶏機器の購入を迫られ苦悩する「下請け」と化した養鶏農家の表情や、は映像だけでとても多くのことを語っている。
ともすれば深刻・残酷になりがちな映像をテンポよくつなぎ、最終的にはオーガニック・フードのよさを明るくおおらかに訴える構成も悪くない。それは、希望は、ないわけでも、ないのだ…とか細く歌っている、というようにわたしには聞こえる。
だが「歌」にした時点で、掌から砂が落ちるようになにかが滑り落ちてゆくような気がする、のも確かだ。それは「現在」という中途半端な時代の「限界」のようなもの、かもしれないと思う。

日本ではアンプラグド社が2005年制作の「ありあまるごちそう」と合わせて「食の社会見学」と銘打って2作連続上映する。
1月22日からはじまった上映は食の安全への関心の高さを反映してか、好調らしい。
余談だが、アンプラグドは昨年、和歌山・太地の「イルカ漁」の残酷さを告発した映画『コーヴ』の配給元ともなった。『コーヴ』は82回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞受賞作であるが興行的にはアメリカでも日本でも『FOOD,INC.』に及ばないようだ。

とうもろこしから世界をみる

さて、『FOOD,INC.』である。
アメリカのスーパーでは平均47,000ほどの食品が売られているが、その中身が本当はどんなものでできているか、どのように作られてできているか実際には良く分からない。それは食品業界がその実態を隠しているからだという。
しかし、材料を調べていくとほとんどの食品にはとうもろこし・大豆が使われているという。

ここからロバート・ケナーは、とうもろこしを軸にすえ、マクドナルドや独占的な巨大食肉企業を取り上げて、アメリカの食品業界の問題を指摘する。それは、食の世界の隠された実態を暴くだけでなく、市場化社会=近代の行き詰まりから逃れようともがく現代の世界を見ることでもある。

市場の独占企業の要求に応える高農薬高効率遺伝子組み換えとうもろこし

マクドナルドは、ハンバーガーレストランとして出発したが、コストも「サービス」もスピードも大幅にカットする「工業的システム」〜それはいわゆる「ファーストフードシステム」として世界の「市場社会」を制覇しつつあるが〜を導入して成功した。現在、マクドナルドは全米最大のポテトと牛ひき肉の需要家である。
マクドナルドの要請に応えて(であろう)、飼料にローコストのとうもろこしを導入した牛の体内では大腸菌が繁殖し、その結果猛毒性大腸菌O―157が生まれた。(牛は干草を食べると、体内の大腸菌が減るのであり、それで健康のバランスを保っている)その肉を使ったハンバーガーを食べた子供はO-157により食中毒を発症、12日で死んだ。
アメリカでは(そしてたぶん日本でも)マクドナルドのハンバーガーを食べるほうが、有機無農薬野菜を使って食事をするよりも割安に上がるという皮肉な事実が、安くて空腹を満たす食を求める人々を傷つけ死に至らしめたのである。

とうもろこしと大豆はベトナムの枯葉剤も作った米農薬メーカー(というか、種苗でも巨大メーカーである)モンサント社の、破壊的な威力をもつ除草剤農薬に耐えるよう遺伝子組み換えされたものが世界の大半のシェアを握る。大豆では2002年の時点で世界の62%が、とうもろこしでは同じく21%が遺伝子組み換えであり、その90%をモンサント社の種が占めている。今日では、たぶんもっと増えている。それはとうもろこしや大豆の生産コストを下げるためであり、その結果、たとえば、コストの下がったとうもろこしは人間の食用、飼料用、また加工食材として植物性油脂、異性化液糖、アルコール、香料、デンプン、果糖などに大量に使用される。
日本は、米の国内生産の倍に当たる1600万トンのとうもろこしをほぼ全部アメリカから輸入している。飼料や、表示義務のない加工食材には、遺伝子組み換えとうもろこしが大量に使われているというが詳らかにしない。(世界のとうもろこし生産量は6億トン。2億トンが主食用、飼料用が4億トンといわれる。アメリカは世界の4割2.4億トンを生産する)
遺伝子組み換え作物は、その出自からして大量の残留農薬と残留化学肥料を含み、「危険なはずだ」といわれる。残留農薬・残留化学肥料があるだけでも発がん性や催奇性(枯葉剤と同じだ)があるとされるのに加え、遺伝子組みかえ作物では、免疫力の低下やアレルギー反応の増大がマウス実験で示されている。本当は、どこまで怖いか、分からない、ほどに怖い、だろう。

市場システムを制覇した大企業の要求する低コスト・かつ大量のとうもろこしを作るために、大量の農薬と化学肥料が投入され、効き目の強くなった農薬に耐えるために遺伝子組み換えとうもろこしが投入されるという(市場社会特有の)「転倒」現象がここでも起きている。食も農も「工業化」され、蝕まれている。
わたしたちは、わたしたちの「食」の現場から遠く隔てられ、「食」を奪われているのである。

ホロコーストを再現する食肉産業

食肉についても同様の指摘がされる。
アメリカ食肉市場(精肉業界)は大手の4~5社にほぼ独占され、畜産はこれら精肉企業が主導権を握り、品種、飼育方法、使用飼料、機械まできめ、農家は「下請け」化し、ただしばらく「家畜を預かるだけ」という状況である。独占企業は利潤の最大化=コストの最小化を図り、遺伝子組み換えとうもろこし飼料を使用し、成長を促進し、病気にならないようにするためにホルモン剤その他の薬剤が大量に投与される。たとえば、通常90日かかる生育期間を48日に短縮され、しかも本来の2倍もの体重にされ胸肉ばかり大きくなった鶏は、ベルトコンベアに吊り下げられ、機械的に首を切られ、ばらばらに解体され、もののように無造作に扱われ、猛スピードで処理され、次の瞬間に「きれい」な包装をされて「商品」になる。
この大量処理のシーンの映像は、ホロコーストやジェノサイドを想起させる。
そこでは、「いのち」という概念はなく、鶏たちはただの「数」に過ぎない。「数」は、パックの重量に変わり価格という名の貨幣価値に変わる。貨幣だけが価値であり、主人である。
そこでは、労働者も命の感覚を失い、ただの数であり、あまつさえ不法就労者は低賃金で酷使され、会社の裁量で定期的に移民局に検挙される。ここでは人間は、安全からも、労働からも、協働からも、人間からも、「命」からさえも疎外されている。

かくて格安のマクドナルドは世界を制覇する。
貨幣価値が、世界を制覇する、といっても同じである。

「食」を取り戻すために

映像は速いテンポで繰り出され次々に多くのことを語り、ふいにオーガニックフードの礼賛へと変わる。
そして最後に以下の「食の安全のためにわたしたちができること」というメッセージが歌いだされる。

●労働者や動物に優しい、環境を大事にする企業から買う
●スーパーに行ったら旬のものを買う
●有機食品を買う
●ラベルを読んで成分を知る
●地産食品を買う
●農家の直販で買う
●家庭菜園を楽しむ(たとえ小さくても)
●家族みんなで料理を作り、家族そろって食べる

これはこれで至極もっともである。そのようにしたいと思う。
誰もがすぐにできそうに思える。
だが、本当に、そのようにできるだろうか。
できない理由があるから、今日の市場システムに蝕まれた食があるのではないか、と思えてならない。
できないとわかっているのにもかかわらず、できるかのように教唆するのは、欺瞞というものである。詐欺といっても良い。
貧困者は、安い値段で空腹を満たすカップラーメンやファーストフードを「自主的」に選択する。
当然である。
市場社会にあるものは貨幣に支配されて生活する!
貨幣収入の十分ある人はもちろんだが、そうではない貧困者や買い物弱者が、旬の有機の地産食品だけで生活できるのが当然のことではないのか。

大事なのは、スローガンではない…。
大事なのは実践である。
わたしたちは、市場原理の外に、貨幣の外に、生理的疎外の外に、「食」をすくいだす努力をもっと積極的に、つまり実践的にしなければならないのではないだろうか。

市場社会の成れの果て「戦争国家アメリカ」の食糧戦略と日本「革新官僚」の野合が農と食を破壊した、ということ

今日の工業化された食の淵源は、もちろん市場システム万能の社会のありかただが、戦争国家アメリカの世界戦略にも、同様の責任はあるだろう。
1950年朝鮮戦争勃発あたりから1960年代にかけて講和条約・日米安保締結〜改訂といった政治の動きと並行して、アメリカは国内の余剰小麦、大豆、とうもろこし、食肉(とくに牛肉)などを日本に最初は無償援助、途中からは輸出することとし、日本政府は、それらの農畜作物を自給することなく、アメリカからの輸入に頼ることとした。
国内では食料不足解消を計る時期であり、「食の西洋化」が喧伝され、官民一体となってタンパク質や油脂の摂取拡大が推進された。小麦は、学校給食に利用されることとなり、国産の米は給食から締め出された。愚かなことである、とでも書いておくしかない…。

アメリカは2度の世界大戦と朝鮮戦争により超高度経済成長を果たし、大衆消費社会が成熟しつつあり、日本で1970年頃から米あまりが表面化したように、農業生産物の過剰・価格低下という問題を抱えていたから、この際、余剰生産物の処理と、農家の保護・農業維持対策ができる、おあつらえ向きの1石2鳥と算段したものと見える。
また「食」を地域や自然に根ざした「生活世界」のものから、弱小国を(ソ連に対抗して)アメリカの傘の下におくための政治=軍事戦略の世界に「戦略物資」として組み込むという発想の具現化でもあった。その結果、大義名分をえたアメリカ政府は農家には莫大な補助金を出して、農家保護の美名の下に農産物を低価格誘導し、これを食糧不足の国に恵むようにして売り払い、政治的同盟を結び事実上支配するということをした。
これは、当時米ソ対立の中の政治戦略と理解されたが、今日では、政治戦略そのものがアメリカ資本主義の市場拡大戦略に他ならないこと、そしてそれは本質的には市場原理というものが強いる無限の拡大運動の発露であることは、明白であろう。

日本側は強いられた面もあったが、同時にアメリカ産のほうが安いものはアメリカのものをつかえばいい、という妙に開明的合理的な判断を(自主的・主体的に)したものがあった。戦犯にして日本国首相をもつとめた岸信介とその直系の官僚出身者たち、たとえば池田隼人や佐藤栄作である。
岸信介はその昔、「革新派」と呼称された内務系官僚のボス格の一人であった。岸ら「革新」官僚こそは、陸軍統制派と野合して軍-官主導の極めて合理的に戦争に生産力も生活も根こそぎ投入する体制、すなわち「国家総動員体制」=軍国主義体制を作り、東条と並んで権力を一手に握り、生活者を国民と名乗らせ、戦争へと煽り立てた張本人である。
岸ら「革新官僚」の生き残りは、封建主義の残存遺制(農村共同体システムのうちの支配システム)をそのまま産業を支配する構造(官主導の産業支配と会社の成長のために個人はあるという会社主義)に移し変えた「会社共同体資本主義」とも言うべき、支配構造をテコに「高度経済成長」をになったが、同時に農村には主食たる米の増産を強いて、アメリカ式機械化・高農薬・化学肥料農法を導入した。
その結果は、今日の農の解体の危機であり、食の喪失の危機、である。

映画では、モンサント社も、巨大食肉産業も歴代政権と親しかった、というような暗示的な言いかたにとどめられているが、もちろん、事態はそのようなきれいごとではない。アメリカが常に戦争をせざるを得ないのは、市場の拡大のためである。市場社会は自己増殖のための擬制として、戦争機械たる国民国家というものを現出させた。市場社会拡大=戦争国家の推進者には、モンサントや巨大食肉産業も、マクドナルドも、当然含まれる。
市場のなかでは、「貨幣」だけが市場の原理たるギャンブルの勝敗を決する神であり、「貨幣」のみで量られる「利益」が富のすべてである。
清貧と勤勉と自由を愛する清新な「プロテスタンティズム」の精神を持って、「未開」の市場を開拓してきたフロンティアスピリットは、「軍産複合体制」として、今日でも非市場社会の拡大のための戦争なしには生きられない「戦争国家」を作り出し、その中では、または更なる市場原理の純化を目指す「市場原理主義」を育てた。
市場社会の成れの果て、であるアメリカ国家は、市場の外部に対しては、依然として市場の拡張のために世界を市場原理下におこうとするし、内部でも非市場的な部分を容赦なく純化された市場原理のもとに組み込もうとする。

わたしたちは、「フードシステム」の向こう側に隠された食をこちら側に奪還するために、とても大きなものと戦わねばならぬ。そして、それは映画が示すような微温的な自己防衛的な戦いではなく、残酷なほど激しく戦いながら、しかし完膚なきまでに勝利してはならぬという奇妙な、非市場的な戦いである。
市場の戦いは、勝者と敗者を分けるためにある。市場の内部と外部の戦いは、勝者も敗者も生み出さぬために、言い方をかえれば勝利しないこと、すなわち敗北をもって勝利とするためにある、のだから。



posted by foody at 18:17| 神奈川 | Comment(0) | TrackBack(0) | 農・食・状況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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